単独インタビュー第8弾 2011年 年明けインタビュー企画「Bar DOVECOT バーテンダー渡邊 真弓さんを迎えて(5)」
K:Q6ダヴコットさんは、秩父蒸溜所のご紹介をされていてご縁が深いと伺っていますが、その事について伺っても宜しいでしょうか?最初のきっかけも教えて頂けたらと思います。
渡邊さん:はい。肥土伊知郎さんとは秩父蒸溜所が出来る前からお付き合いをさせて頂いていて、最初の出会いは、羽生蒸溜所で出来たウイスキーのちっちゃなサンプル瓶をいくつかお持ちになってお1人でいらした時です、たしか雨の夜に。
K:雨でしたか?
渡邊さん:雨でしたね。いつだったかな、何月かは覚えていないんですけれど、雨の夜にね、お1人でいらっしゃって。その頃はマスターがいて、肥土さんが1杯飲んだ後に「ちょっとお話が」と。
K:はい。
渡邊さん:マスターの横で、案の定聞き耳を立てていたんですけれど「私、ウイスキーを作っているんですよ」という会話から始まってサンプル瓶をお出しになったんです。
K:はい。
渡邊さん:とは言っても「ウイスキーを作っている」ってびっくりするじゃないですか?日本で?蒸溜所はどこ?って感じで。
K:ええ。
渡邊さん:その時はすでに羽生蒸溜所は閉鎖されてしまっていますし、どういう事だろうと思って聞き耳をたてながら、試しにサンプルのモルトウイスキーを頂いたら、物凄く美味しくてとてもびっくりしたんですね。
K:ええ。
渡邊さん:事情を聞いている内に、何かこう凄く感動を致しまして。羽生蒸溜所の歴史、その後のご苦労、そして今後の夢、しかもお1人でね、1軒1軒営業されていると聞いて。肥土さんの気さくなお人柄や、ウイスキー作りにかける熱意、それに加えて、飲ませて頂いたウイスキーがあまりにも素晴らしかった事を記憶しています。それでマスターが、微力ながらサポートさせて頂きたいという事で、それ以来発売されたイチローズモルトは全部入れていると思います。
K:そうですよね。
渡邊さん:そしてお客様にも徐々にお伝えして。最初は半信半疑という方も多かったのですが、やはり一度お飲みになればその価値がお分かりになるというか、次にいらっしゃった時に「又新しいのないの?」とか「あの時のないの?」という感じで皆さんに認知して頂けるようになりました。最近ではそれを目的に来て下さる方も増えて。少しずつですがサポートを出来ているかなと思います。
K:ええ。以前門間さんのインタビューをさせて頂いたり、門間さんとご一緒させて頂いた際に「ダヴコットさんには大変お世話になっています。」と仰っていましたね。
渡邊さん:いやいや、こちらこそ。
K:だからこうして考えるとインタビューをして、繋がって行っているのだなと思って。
渡邊さん:そうですね。
K:はい。
渡邊さん:そう、門間ちゃんまだ学生さんの頃に来ていますからね。
K:そうですよね。
渡邊さん:肥土さんに連れられて、「一緒にウイスキーを作りたいって言っているんですよ」と、まだそんな時でした。東京農大の学生さんの時にいらっしゃって頂いたんですね。まさかあれよあれよ、と言う間にイチローズモルトが世界的になるとはね。あまりの早さに少しびっくりしてます。
K:本当にそうですよね。最初にその様な出会いを聞いていると。
渡邊さん:ほんの数年前ですからね。
K:どれ位前でしょうかね。最初にいらっしゃったのは?
渡邊さん:どれ位でしょうね、5、6年と言うところじゃないですかね。
K:でも最近ですよね。
渡邊さん:そうですね。
K:そう考えるとまだお若いですよね。
渡邊さん:確かに。その時に初めて出されたイチローズモルトを何本か買わせて頂いたのですね。
K:はい。
渡邊さん:お店に数本置いて、あとはマスターが毛利さんに紹介したいと言って、お持ちしたと思うんですよ。
K:そうなのですか。
渡邊さん:まだその誰も知らないわけで。
K:そうですよね。
渡邊さん:非常に美味しいモルトウイスキーなのでご紹介したいという気持ちと、肥土さんのロマンに何か力になりたいという思いで、マスターがお師匠さんである毛利さんの所に持って行ったのだと思います。
K:ええ。
渡邊さん:それにしても、こんなに有名になるとは...。
K:そうですよね。私は最初何で存知あげたのでしょう。きっとどこかでイチローズモルトというのを見て「イチローさん?」と。全然ないですものね。それでびっくりしたのが最初で、どんどんご活躍されて、色々な所で認められていらっしゃって。後はTHE Whisky World今はWhisky Worldですが、そちらに門間さんが載っていらっしゃって印象が強かったですね。女性がと言うよりは門間さんの情熱が。
渡邊さん:うん。
K:どこからか門間さんの情熱を聞いて、そういう流れて入ったんだよ、と。門間さんから直接伺ったわけではなくて、何処からか聞いて、凄いなと思って。その情熱を持って、まだどうなるか分からないと言う時に、門間さんインタビューで掲載しましたが「建てると言う事は建つと言う事でしょう。」だから働くと。というの言葉も聞いて、更に興味を持ちましたね。その情熱が凄いなと。
渡邊さん:うん。ま、理系ですよね(笑)。
K:(笑)。そうですよね。
渡邊さん:後先とかはあまり関係なくて、その時に興味あるものを「やりたい!」という感じなのでしょうか。タイミングさえ合えば「やろう!」というところが魅力ですね。
K:ええ。ところで、今出されているもので渡邊さんが今1番お好きなものは何ですか?又お勧めのものでも宜しいのですが。
渡邊さん:今あるもので、ですか?
K:はい。
渡邊さん:カードシリーズは、凄く面白いと思います。ご存知の通り樽や熟成年数がそれぞれ違っていて、それが1度に4種類出て来るんですけれど、最近も新しいものが入ったのですが、その飲み比べがとても楽しみですね。
K:ええ。
渡邊さん:よくも毎回違ってね、生まれて来るもんだなと思ってね。後、ラベルが印象的ですよね。
K:そうですよね。印象に残りますよね。
渡邊さん:カードシリーズが出るたびに、ラベルのトランプのデザインがずいぶん違って出て来るのが楽しみで。バックバーに置いていても映えると言うか。奇麗なボトルだなと思って、ウイスキーと共にラベルも楽しみにしているんですよ。
K:有難うございます。
K:Q7、私の定番の質問となります。渡邊さんが、プライベートでいらっしゃったBarで業界に入られる前でも宜しいですし、Barの感動した出来事を教えて頂きたいなと思います。
渡邊さん:そうですね(考え込む渡邊さん)。そうですね。1番自分に大きな影響を与えたのは、やっぱりダヴコットでしたね。
K:ええ。
渡邊さん:他にも色々なBarに行かせて頂きましたけれど、勿論素敵なBarばかりなのですよ。ただ、その時の自分の中のBarというイメージを具現化したらこんな空気なんだろうなと思ったのはやっぱりここでしたね。バーテンダーとしてのスタンスも大きく変化したという事では唯一の存在かもしれませんね。それと、やっぱり毛利バーです。マスターの師匠でもありますから、一緒にご挨拶させてもらいに伺った時なんですけれど、凄く賑やかで、満席で「夜中なのに?」と。なんてったって楽しそうなんですよね、お客様が。
K:確かに私が伺った時もそうでした。
渡邊さん:時間帯によって空気や雰囲気も異なるのでしょうけれど、私が初めて伺った時はお客様がみんなニコニコしていて、これって一体感?みたいに思いました。騒々しいわけではなく、一人なんだけど囲まれているような安心感、場が明るいんですね。そして毛利さんに初めて直々に作って頂いたのですが、その時の毛利さんが作る様子から表情まで未だに全部覚えていますね。
K:その時に作って頂いたものは、やはり?
渡邊さん:マティーニですね。
K:そうですよね。
渡邊さん:これはやられました(笑)。本当に美味しかった!ただ、緊張していてぐいぐい飲まなければいけないと思って、頑張って勢いよく飲んだ記憶があります。
K:最初にマティーニを召し上がって、その後は覚えていらっしゃいますか?それ程長くいらっしゃれなかったでしょうか?
渡邊さん:いえいえ、結構ゆっくりさせて頂いて。その後はブルームーンを作って頂きました、同じくジンベースの。ブルームーンというカクテルは、私の中でとても印象深いカクテルなんです。バーテンダーになって、ダブコットに入る前ですけれど、シェイクのカクテルで初めてお客様に注文していただいたのがブルームーンだったもので。
K:そうだったのですか。ブルームーンのレシピを教えて頂けますか?
渡邊さん:ジンベースで、レモンジュースとパルフェタムールというスミレのお酒ですね。
K:ええ。
渡邊さん:バイオレットフィズというカクテルが昔流行りましたけれど、それと同じスミレのリキュールを使っていて。ただ、出来上がったカクテルは実はブルーではなく、青みがかったピンク色で、これも奥深いいい色ですよ。
K:ショートですか?
渡邊さん:ショートのスタンダードカクテルで、凄く綺麗で香りも良いです。自分の中では特別なカクテルなので、毛利さんの代表的なマティーニを飲んだ後、何となく記念でブルームーンを作って頂いたのですが、それが未だに世界で1番美味しいカクテルですね。美味しかったですね。
K:カクテルって、何でしょう。こう「わー」って思いますよね。
渡邊さん:思いますね。
K:同じものを頂いていても、最近私はウイスキーベースのカクテルを作って頂く事が多いのですが、やはりBarへ行ったらカクテルを頂きたいですよね。でも流れで出来ればウイスキーベースのカクテルを作って頂きたいと思っていて。以前私は何処でもアレキサンダーを頂いていて、でも同じアレキサンダーでも本当に作る方によって違うのだなと思いました。泡を立てるアレキサンダーの所もあればそうではない所もありますし、ナツメグを振るところもあればそうでもない所もありますし。本当に1つのカクテルを頂くにあたると違いが分かる。何だか薄いなと感じるところもありますし。
渡邊さん:うん、うん。
K:それはレシピの問題?
渡邊さん:そうですね。配合にもよりますし、使うブランデーだったり。
K:その時に、「これは!」と思えるカクテルに出合えた時の気持ちが本当に分かります。嬉しいと言うか、出合った!みたいな感じが分かります。
渡邊さん:そうですね。ダヴコットでマスターのカクテルを飲み、毛利バーで毛利さんのカクテルを頂いて、出合った!嬉しかったですね。大きな感激でした。
K:ええ。
渡邊さん:勿論、何処へ行っても勉強をさせてもらうんですけれど、自分に大きい影響を与えて貰ったというところではこの2店舗ですね。
K:ええ。
渡邊さん:この出会いによって今のスタンスが築けたということを幸せに思います。マスターにアドバイスを貰えたり、毛利さんにお会いした時に色々聞けたりという事が出来ますし。それまでは我流と言うか、これという師事が無くやっていたので、ダヴコットに来る前にちょっと迷っていた時期があったんですね。
K:ええ。
渡邊さん:果たして作っているものがこの考え方で良いのか、シェイクはこれで良いのか、と自分で暗中模索をしている中で、ビシッとした方に1から習って芯を作りたいという思いが強く出てきまして。そんな時期に出会えたこの2つのBarは私にとって大事な場所です。出来る限り習った事を継承していきたいなと思います。
K:ええ。
渡邊さん:なるべく近付ける様に。
K:はい。ところで、渡邊さんが今迄取られた資格は何でしょうか?PBOの(プロフェッショナルバーテンダー)はどういうものなのですか?
渡邊さん: PBOとはバーテンダーの資質向上のために組織された協会のひとつなんですけれども、その中の認定バーテンダーという資格をもらうには、筆記と技術の2つの試験を受けて合格しなくてはならないんですね。筆記はバーテンダーズマニュアルというお酒に関する事が色々と書いてある本があるんですけれど、その中から出ます。お酒全般の事、それと一般知識もあったりします。
K:ええ。
渡邊さん:それをまず受けてから、実技試験をやります。
K:筆記試験が受からないと実技には進めない?
渡邊さん:いえ、同じ日に両方の試験をやって合否が決まります。それぞれクリア点がありどちらか一方でもそれを下回ると合格は難しいです。
K:後はスコッチ文化研究所の?
渡邊さん: エキスパートです。
K:やはり資格があった方が宜しいものですか?資格に対してどうのこうのではなくて。
渡邊さん:私の場合、期日に迫られて勉強しないと中々やらないので、そういった意味では良いチャンスだと思っています。後、認定バッジや、認定証を頂いたりすると、お客様の中には安心される方もいらっしゃると思うんですね。勿論、資格の有り無しが、総合的な実力とイコールというわけではありませんけれど。
K:ええ。
渡邊さん:ただ、日常には無いプレッシャーにトライすると、意外と短期間で大きく前進出来たりする事もあるので、そういう意味でも挑戦する様にしています。
K:今後も何かあれば?
渡邊さん:そうですね。なるべくモチベーションを維持すると言うか、日常の営業でも次々と刺激はあるのですが、大会へ出たりとか試験を受けに行ったりすると全国のバーテンダーさんと出会える機会にもなりますし。頑張ってらっしゃる仲間の姿を見ると新たに気持が引き締められますね。
K:高めていかれるのですね。
渡邊さん:ええ。刺激をもらいに行くという意味でも今後も参加していこうかと思っています。(最終章へ) (4へ戻る)
※次回掲載予定日2/18(金)
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