単独インタビュー第20弾 新年企画「Shot Bar Zoetrope オーナー堀上 敦氏を迎えて(2)」
K:次なのですが、
Q2、ゾートロープさんの意味を教えてくださいませ。
(HP掲載)http://homepage2.nifty.com/zoetrope/
堀上さん:「ゾートロープ」、とは、回転式のパラパラマンガみたいな物で、映画の元になっている物ですね。
K:ええ。
堀上さん:(現物を取りに行かれ)うちのお店は、コンセプトが2つありまして、1つは「ジャパニーズ・ウイスキーを中心とした日本製の洋酒」で、もう1つは「映画」なんです。店名は、その映画の方からとっているものです。
K:こちらを見せて頂いた時に本当に面白いなと思いました。
堀上さん:当店は日本のウイスキーだけでなく、「映画」というコンセプトも大きい括りの1つなのでそちらから名前を付けています。ご存知のように、「ウイスキー」は元々「命の水」と言う意味の言葉です。さらに言えばウイスキーに限らず大体の蒸溜酒が「命の水」と言う言葉が語源になっていますよね。「ゾートロープ」と言う言葉は元々はギリシャ語が語源で、「ゾー」が「命」で、「トロープ」が「輪」という意味...「命の輪」という事なんですよ。なので、「命の輪」の中で、「命の水」を飲んでもらいましょう、というコンセプトなんです。
K:お名前は悩まれませんでしたか?直ぐに決まったのですか?
堀上さん:そうですね。もういくつかの候補がありました。うちのお店のデザインは、日本映画の美術の木村威夫先生という方にやっていただいております。2010年に90過ぎで亡くなられたんですけど、その木村先生にいくつか候補を出した中に「ゾートロープ」も有りました。最初は昔の映画館みたいな...最近の映画館ではあんまり付けない「何とか座」みたいな名前を考えたんですけど、木村先生が「それはダサイねぇ」って話をされて、それだったらもう1個候補に出ている「ゾートロープ」の方が良いんじゃないかいって。
K:ええ。
堀上さん:木村先生と言うと、鈴木清順監督とのコンビでの仕事が有名なんですけれど、「それだったら『ピストルオペラ』って店名はどうだい?」なんて提案もされました。勿論、木村先生にデザインをお願いしたくらいですから、私は鈴木清順監督の大ファンなんですけれど、それでも『ピストルオペラ』にしちゃったら、清順監督のファンしか来ない店になっちうんじゃないか、そうなるとお客様が限定され過ぎで困っちゃうなと(笑)。
K:ええ。
堀上さん:それで「いやー、鈴木監督嫌がるんじゃないですかね」とお答えしたら、「いやいや、鈴木さんそんな事で文句言わないよ」って。「いやいやいや、やっぱりご遠慮しときます」(笑)と。
K:(笑)。
堀上さん:で、結局「ゾートロープ」にしたんです。
K:とても言い易いですよね。何て言うのでしょう、覚え易いし、言い易いし、インパクトもありますし、
堀上さん:あまり馴染みのない単語なので「何だろう?」と思う方も多いので、結果的には良かったかなと。
K:そうですよね。最初の内はどういう意味なのかしら?と。伺いましたし、HPも拝見して、色々な方が携わっていらっしゃる、お作りになるにあたって、いくつか候補があって違うお名前が出ていたというのは存じ上げなかったので、
堀上さん:そっちの話はあんまりしないですからね。木村先生が『ピストルオペラ』でどうかと言ったとか、そうしょっちゅう言っている話ではないので、
K:聞かれてからどういう話なの?という所から、ウイスキーの話か映画の話になりますものね。
堀上さん:ま、そうですね。
K:有り難うございます。次なのですが、
Q3ジャパニーズウイスキーの魅力を教えて頂けますか?
堀上さん:何でしょうかね。ジャパニーズウイスキーの魅力。うーん、ジャパニーズウイスキー自体の成り立ちに関わる事ですけど、
K:ええ。
堀上さん:ご存知のように、竹鶴政孝さんがスコットランドに行って、勉強して技術を持って帰って来た訳ですから、日本の目指した物はスコッチ・ウイスキーですよね。そのスコッチ・ウイスキーは、まずモルト・ウイスキーが作られて、次にグレーン・ウイスキーが発明されて、そのふたつを合わせることでブレンデッド・ウイスキーが誕生した。そのブレンデッド・ウイスキーが世界中で飲まれるように広がっていったって歴史があるじゃないですか。大きいウイスキー会社があって、そこが小さい蒸溜所から原酒を買って来て、それを材料にしてブレンドして、完成品としての「ブレンデッド・ウイスキー」を作るのが基本的な考え方じゃないですか。
K:はい。
堀上さん:そうすると、それぞれの蒸留所が作っているお酒は、元々はブレンデッド・ウイスキーを作るための材料ですから、いつも均一の同じ味、同じ品質の物を作らなければならない。いつも同じのタイプの物を作って、評判が良ければさらに同じタイプのスチルを増やし、同じタイプの樽、同じタイプの貯蔵の仕方で、同じタイプのモルトを増産していく。同じタイプの物を作って行かないと、原材料としての役割を果たせないですから。だから、この蒸溜所だったらこういう味、という方向性ががっちり決まっている。それがブレンデッドだけでなくモルト自体を飲む需要も増えたので、例えばボトラーさんとかが、オフィシャルとは違うタイプの樽に入れましたよ、というのを作ったり、蒸溜所自体のオフィシャルとしても、ちょっと違うタイプのもの作りましたよ、というのが出て来るようになった。でもその根本には、ブレンデッドの原材料となるところのモルトを、「うちはこのタイプを作るんです」と、一本太い線としてバンと決めてあって、それをきちんと継承していますよね。
K:ええ。
堀上さん:元々、日本のウイスキーはスコッチを目指していましたから、モルトを作って、その上でブレンデッドを作りたい訳です。ところが、蒸溜所が山崎しかない。スコットランドであれば、あっちこっちの蒸溜所から材料を買ってくればブレンデッドが作れる。山崎蒸溜所しかない所から始まっているので、たった一箇所の蒸溜所でどれ位バリエーションを作ることが出来るかに賭けていくしかないじゃないですか。その後、余市蒸溜所が出来ても、やっぱりその一箇所の蒸留所だけで原材料になるモルトを作らなければならない。だからスコッチの蒸溜所みたいに特定のタイプのモルトを作って深化・継承する方向ではなくて、どんどん違う物に進化・発展させながら広げていかなければならない。だから生産量を増大したり、蒸溜所を拡大する時も、違うタイプや違うサイズのスチル、違う種類の樽と、出来るだけ今までと違う新しいやり方を増やしていく。それが結果として、「こんな山崎があるの?」「こんな余市があるの?」になる。もちろん、サントリーさんやニッカさんだけでなく、日本の全ての蒸溜所は、「え?こんな○○があるの?」と言う、たった1箇所の蒸溜所から思いもよらないものが出て来るのが、ジャパニーズ・モルトの大きな魅力だなと思います。
K:以前の女性ウイスキーの会の際に出て来た話なのですが、皆様色々と召し上がっている方が多いので(私が応援ボトルとして)マルスをお出しし、その後ニッカウヰスキーの70周年に出された次のエレガントスタイルをお出ししました。その皆様と山崎、白州、秩父へと女性ウイスキーの会として蒸溜所見学をして色々とウイスキーを頂きました。勿論全員とは言わないですが、ジャパニーズとして一貫しているところがあるよね、と仰っていて、私も実際感じるのですが、
堀上さん:そうですね。
K:仰っている事も私が感じている事も分かるのですが、何と表現すれば良いのでしょうね?
堀上さん:物凄くざっくり言うと、穏やかですよね。
K:ええ。
堀上さん:例えば、日本のモルトはピート感とかスモーキー感とかはそんなに強くないのが基本です。だけれども、余市でスモーキーな物だったり、白州のヘヴィリーピートだったり、伊知郎さんのザ・ピーテッドだったり、日本では割と珍しいタイプの物があるじゃないですか。
K:ええ。
堀上さん:こうした物を飲んだ時、最初はスコッチのアイラとかを飲んだ時のような強い香りを感じるんですけれど、その後がちょっと違うと思うんですよ。スコッチでピートが効いているものって、もっと香りとかテイストが残ると思うんですよね。でも日本のはピート効いているものでも、その後割とスーッと消えていってしまう。
K:ええ。
堀上さん:フィニッシュが短いと言うことではなく、何か後をあまり引かないところ。分かりやすいのでピートとかスモーキーなものでお話ししましたけれど、それに限らず甘い香りやウッディなテイストとか、何にしてもたとえ強いテイストがあっても必要以上に後を引かずに、もうふわっと消えちゃう感じが、ある意味日本のウイスキーに特徴的な穏やかさかな、と思いますね。
K:確かに。頂いた時に、何て表現すれば良いのでしょうね。口に含んだ瞬間に何て言うのでしょう。1本筋が通った、こう風合いを感じますし。
堀上さん:ええ。
K:ブラインドをしたら当たるかは何とも言えないのですが。ずっとその思いを抱いていたら、女性ウイスキーの会の際にそのお話が出て、分かる、というお話が出て、他の方も分かる、と仰っていたので、樽を強く感じるのかそれは何を感じているのか、突き詰めていきたい気はするのですが、表現がお上手な方もいらっしゃるので、もう少し考えてみたいと思います。表現が難しくて、感覚的な所もあるので、
堀上さん:そうですよね。
K:その方によって捉え方が違うでしょうし。
堀上さん:ジャパニーズに共通している「何か」って言うのはあると思います。 (3へ続く) (1へ戻る)
※次回掲載予定日 2/21(金)
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