単独インタビュー第6弾 ロングインタビュー 「ウィスク・イー ソサエティ・スペシャリスト兼アドバイザー 元木 陽一さんを迎えて(7)」
K:Q6それでは次ですが、元木さんご自身のお好みのウイスキーの傾向等がございますか?
元木さん:だいぶ好みは変わりましたよ。
K:最初はどうなって、後はどうなったのですか?
元木さん:例えば飲み始めた頃は、シェリー系ばかり飲んでおりました。
K:ええ。
元木さん:勿論最初にモルトウイスキーとして意識的に飲んだのは、ピーティーなものですけれどね。
K:はい。
元木さん:初めて飲んだのは、ラフロイグだったかな。「何じゃこれ?!」という感じだったのですが、気になって再びトライしてみましたね。でもそのBarはかなり格調高いお店でしたね。西麻布に「TSURU」という素敵なBarがありました。そこで飲んだのですけれど、初めて行ったときは年齢的にはお会計が高く感じました。まだ20歳そこそこでしたが、3人で飲みに行ってお会計が6万円位になってしまって慌てました。他の二人は酩酊しちゃって、しょうがないから、なけなしのクレジットカードで精算しようとして「カードOKですか?」と聞いたらバーテンダーの方が「もちろんでございます!アメックスかダイナースのみになりますが・・」と言われてハニワになりました。その時勿論アメックスなんか持っているはずもなく、ニコスカードしか持ってなくて、酩酊した二人を店に残したまま勤務していたバーに戻って、つり銭の千円札の束を6万円分借りて急いで戻って、その何十枚もの千円札で支払いしました。いい笑い話ですが・・。でもそれまでバーボンばかり飲んでおりました。20歳位のその時に初めてモルトウイスキーを飲んで目覚めてしまったのですよ。バーボンを嫌いになったのではなくて真新しいのが欲しいなと思っていて、モルトを飲んだのがきっかけですね。でも本当にモルトを飲んで美味しいと思ったのは、とある知人のお店に伺った時にブラックボウモア1964がリリースされたばかりで。飲ませてもらったのが始まりでしょうか。実に感動しました!
K:ええ。
元木さん:初めて飲んで、おごってあげるよと言われて。
K:凄いですね。
元木さん:その時は今ほど高額でもなかったのです。
K:そうなのですか。今みたいに皆さんが騒がれる様な感じではなかったのですか?
元木さん:あまりに美味しかったのでチップを貯めて購入しました。当時は数万円でしたので、なんとか手が届きました。
K:ええ?
元木さん:今みたいに何十万ではないですから。ブラックボウモアを飲んだ時に「これ美味いな」と思って、購入したのはいいのですが、酔っ払って帰った時に家で開けて飲んでしまいました。どうせだったら2本買っておくべきでしたね。
K:はい。
元木さん:そこからですね。結構モルトを飲み始めたのは。
K:そこからお好みが少し変わって?
元木さん:うん、だから最初飲み始めた頃は、どっかんシェリーみたいなのばかり飲んでおりました。今だと例えばゴム臭や硫黄臭は気になっちゃうのですけれど、その当時は分からなくて、これが飲みごたえだと思っていたんですよ。
K:ええ。
元木さん:すごい個性だなと思って。それは個性的だったからある意味好きでした。長期熟成で重たいのばかり飲んでいましたから。でも皆さんそうだと思うのですが、最初アイラ系かシェリー系にいくとか。
K:ええ。
元木さん:その内、飲み慣れていくと繊細なものの風味が感じられるようになります。ローランドの繊細なローズバンクみたいなタイプも好きになるんじゃないですかね。
K:はい。
元木さん:皆さん、飲みつけていく内に嗜好が変わって来ているはずです。
K:そうですね。変わりますね。
元木さん:許容が広がるんですよね。
K:ええ、ええ。
元木さん:だから苦手なものも少なくなりますよ。少なくなるというより「これも個性だ」と認めてあげられるようになります。
K:はい、そうですね。
元木さん:これは面白いなって飲める。
K:はい。
元木さん:だってバランスの良いものや美味しいものばかりではないですからね。好みの違うものとあたっても、これはこれだって、違った角度の意識で飲めれば...うん、許容が狭いと、飲むものが少なくなっちゃう。
K:ええ。
元木さん:今では色んなものを飲みますよ。ウイスキーに関しては。
K:今1番お好きなものというのは?
元木さん:難しい質問ですね。
K:お答え辛いですか?好みとしたら?
元木さん:意識して飲むものは、概ねスタンダードの10年クラスが多いです。
K:はい。
元木さん:結構基本的な部分で、凄く大事ですね。
K:はい。
元木さん:スプリングバンク10年だったり、アラン10年は好きで、いつ飲んでもリラックスして飲めますね。
K:はい。
元木さん:あとはロングロウですかね。ロングロウの10年。スプリングバンクに働きに行く度に、お駄賃みたいな感じで所長のフランクがプレゼントしてくれました、「ご苦労さん」と言って。その印象が強いのか、特に好きですね。だからよく飲みます。
K:ええ。私も頂いた時、美味しいなと思いました。
元木さん:10年としては、今挙げた3つはスタンダードクラスではレベルの高い10年だと思いますよ。飲みごたえもバランスも良くて。
K:私、何故だか元木さんの印象が、どうしてもスプリングバンクなのですよね。アランという事も勿論あるのですが。ですから元木さんとお会いする前に先日スプリングバンク10年とスモールバッチと...
元木さん:あれも美味しいですよね。
K:美味しかったです。
元木さん:スプリングバンク蒸溜所の加水のやり方は、入念で丁寧な方法だと思います。相当手間をかけますね。だから自信を持って加水した46%をリリースしていると思います。スプリングバンクはボトリングする1年前に、一旦50%位まで加水して、再び樽に戻して馴染ませます。だから46%でも単なる水で薄まった感じがしない訳です。しっかり1年馴染ませて最後にバッチに空けられた時に最終調整で少しだけ加水され、46%でボトリングされます。勿論チルフィルタリングは行っておりません。スプリングバンクはよく味が変わると言われますが、合わせるバッチが小さくて、特に風味のバランスを取ろうとして他の樽のものを足したりしないものですから、毎回バッチで風味の違いが出ます。これはこれで楽しいですよね。
K:という事は現在良く飲むモルトは、アラン10年とスプリングバンク10年とロングロウの10年ですね?
元木さん:10年クラスの中ではよく飲みますね。家でもBarでも。いつでも受け入れ易い。そのままでも飲むし、加水しても飲むし。
K:加水が良い時もありますよね。
元木さん:家に飲み疲れて帰って来て、最後の1杯位は加水してよく飲みますよ。
K:お家に何本位お持ちですか?
元木さん:400本位ですね。ほとんどがオールドボトルですよ。
K:そうですか。
元木さん:昔はオールドボトル一辺倒でしたから。今、考えるとあまり良い傾向ではないですよね。モルトだったら古い方が美味いに決まっていると思い込んでおりましたから。
K:ええ。
元木さん:今はリリースも多く、特別な樽をしっかり選んでリリースされているも少なくはないですから、現行モノだから美味しくないという判断は出来ないと思います。オールドボトルと今のボトルは比較対象にしてはいけないと思います。だって現行ボトルが古くなったらどうなるかなんて誰も分からない。
K:そうですね。
元木さん:オールドボトルも最初からそういう風味だったわけではなく、瓶内で劣化したり抜けたりして、分子レベルでよく馴染んで丸みが出ているからオールドボトルフレーバーになっているのです。
K:そうですよね。変わって来ますものね。
元木さん:アルコール感が抜けて丸みが出て、優しいオールドボトルの方が美味しいという人が多いことは事実で、私も美味しいと思います。
K:ええ。
元木さん:それをオールドと現行ボトルは違うものだって捉え方をしないと大変ですね。今からオールドボトルを買い集めてBarをやろうとしても大変だろうし。昔は今ほど高額ではなかったので、普通に家で飲む用で買っておりました。酒屋さんにも多く残っておりましたから。
K:だからボトルをお持ちの一般の方が、イベントを開かれたりしている方が多いのでしょうか。個人で開かれている方が多くなっているという傾向を感じています。
元木さん:多いですよね。今は個人のコレクターの方が個人レベルで、多くのテイスティング会が催されております。
K:飲み手の方の拡大もあるでしょうし、個人的にされている方が多いと「今日イベントが重なっている」と思う日があったりして。
元木さん:イベントが重なる日も多いですよ。こちらも調べ切れてないですから。
K:3つ位重なっているとやはり分散するでしょうし。
元木さん:それで日程変更をしようという事はありません。ある意味プライベートの飲み会ですよね。オフィシャルでやっている事と分けて考えております。
K:お強い方や、金銭的に余裕がある方はあちらへ行ったり、こちらへ行ったりは出来るでしょうけれど、中々ね。私は時間があれば行きたい方ですが、ほとんどの皆さんは、その場で腰を据えてゆっくり飲みたいですものね。
元木さん:確かに今はテイスティング会が増えましたね。しかし個人レベルで開催されている会は価格が安いですね。ご自宅とホテルでは大きくコストが違ってしまいますから、参加費も大幅に差が出来てしまいます。
K:そうだと思います。
元木さん:あまり真新しさがないのは止む得ないですね。
K:きっと内容なのだと思っていて、私もサイトでBarでのご案内をしていますが、必ず伺った事があるお店ではないと書けないと思っているのですが、ご案内を書いていると本当にイベントが重なっていて。皆さんご覧になってから、どちらのイベントを選ばれるのに何を基準にしていらっしゃるのかと思っています。Barの常連さんなのか、中身で選ぶのか、もしくは金額なのか、1日に3つ程イベントがあると皆さん悩まれるのだろうなと思います。
元木さん:企画は簡単ではないですよね。例えばお寿司とモルとでやろうとか。
K:されていましたね。
元木さん:わざわざお寿司と合わせなくてもいいんじゃないと言われたら、それまでだし。
K:ええ。
元木さん:確かにそうなんですが、切り口や間口は広くしておきたい。
K:そうですよね。
元木さん:100%お寿司と合うとか言ったらそうではなものもありますし。
K:(笑)。
元木さん:まあまあそういう切り口もありますよ、という事です。チョコレートであったり、シガーであったり。
K:そうですよね。マリアージュする事も良い事ですよね。
元木さん:今度、全国の珍味を集めてやりたいですね。
K:良いですね。
元木さん:日本の物だけですよ。本当に合えば面白いですね。
K:面白そうですね。
元木さん:色々やってみようかなと。
K:飲みつつ、たまに刺激があるといいですよね。
元木さん:でも本当に珍味と合うのかと不安もあります。そしてモルトウイスキーと圧倒的に合わないと思うのは、イカですね。おつまみのサキイカがあるじゃないですか?
K:はい。
元木さん: お寿司のイカはよく合うのですが、サキイカとは何度やっても合わないですね。
K:した事ないですね。面白そうですけれど、勇気がないですね。
元木さん:合わせようと思えば、個人の好みですから何でも良いと思いますが。
K:ええ。有り難うございます。(6へ戻る)
※次回掲載予定9/3(金)
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