単独インタビュー第20弾 新年企画「Shot Bar Zoetrope オーナー堀上 敦氏を迎えて(3)」
堀上さん:話が微妙に逸れるんですが、「イチローズ・モルトの特徴は何か?」って難しいと思っているんですよ。イチローズ・モルトを飲んだ事のないお客様に、「これこそがイチローズ・モルトだって言う、スタンダードな物を出してくれ」って言われるんです。でもこれって凄く難しいんですよ。最近の新しい秩父蒸溜所の物はともかく、以前の羽生蒸溜所のモルトに関してなんですけど。羽生で作られたモルトは、元々ホッグスヘッド樽熟成しかなくて、それを伊知郎さんの所でウッド・フィニッシュで違う樽に詰め替えて、どんどんバリエーションを変えて行こうとしていた。
K:ええ。確かに。
堀上さん:これが「山崎のスタンダードを出してくれ」だとか、「これが余市だって言うのを飲ませてくれ」って言われればお出し出来るんですが、羽生の場合はちょっと違うんですよね。「これこそがまさにイチローズ・モルトです」というのは、1杯だけ飲んでも分からないですよ。というのが、ある意味答えなんですよね。
K:ええ。
堀上さん:羽生のモルトを結構飲んでいる人には分かってもらえるんですけど、イチローズ・モルトを何種類も飲んで行くうちに、全体の中にボヤ~ンとイチローズ・モルト像が浮かび上がって来る。例えば、クリームシェリーでフィニッシュしたものとバーボン樽でフィニッシュしたものとでは、羽生のものでも一見すると全然違う。それはウッドフィニッシュを駆使する事で、伊知郎さんが意図して違うものになるようにしている。うちでお出ししているラム樽のものも全く違う。でも飲んでいくうちに大きな共通点や輪郭が見えて来る。
‘ジャパニーズ・ウイスキー全般に共通した何か’って言うのは、この‘イチローズ・モルト全般に共通した何か’を探るのと非常に似ていると思うんです。造り手側が出来るだけ変化に富ませようとしたものの中にある共通点を探るという意味で。
K:そうですね。困りますね、「イチローズ・モルトと言えばこれ」、と言われると。
堀上さん:そう言われたら、どれを出すべきだろうと悩みますよね。
K:今のところはどちらを出されているのですか?
堀上さん:今ですと、一般的に置いてあるお店が多い「ミズナラ・ウッド・リザーブ」とかのリーフシリーズですね。あれはブレンデッドモルトであってシングルモルトではないですから、「This isイチローズ・モルト」か、と言うとちょっと違うかなとも思うんですが、他店でも飲める可能性が一番高いものをお出しすべきじゃないかという事でお勧めすることが多いです。うちのお店以外でも出会う可能性が最も高いという事は、それは一種のスタンダードではないかと思うんです。仮に、味的にはもっとスタンダードだと思うカードシリーズのボトルがあっても、それを別の場所で飲める可能性は限りなく低いですし、当店でだっていつまでお出し出来るか分からないものを「スタンダードです」って言うのは違うんじゃないかなと。リーフシリーズの3種の中では緑...「ダブル・ディスティラリーズ」を出したい気持ちも強いんですが、ロットによって割と味が違うんで、ロットによる違いが緑よりは小さい気がする金...「ミズナラ・ウッド・リザーブ」をお勧めする事が多いですね。
K:そうなのですか。
堀上さん:ええ。緑ラベルは、「ダブル・ディスティラリーズ」って名前の通り、秩父と羽生のモルトを合わせていますよ、というピュアモルトなんですけど、羽生の原酒が減って来ている、という事もあって、秩父モルト率が上がっているのですよね。
K:ええ。あ、そうですね。
堀上さん:だから僕は、緑の方がイチローズ・モルトらしさが強いかなと思いつつも、安定感のあるミズナラの方が良いのかなと思うんですよね。
K:配合の違いが出て来てもおかしくないのですものね。
堀上さん:ご存知かもしれませんが、リーフシリーズは裏ラベルに番号のスタンプが押してあって、あれはロットなんですよ。
K:私も持っているのですが、見てみます。
堀上さん:製造ロットによって味が違うというのは、伊知郎さんもはっきりと仰っています。例えばこの「MWR(ミズナラ・ウッド・リザーブ)」なら‘21’のスタンプがある。こちらの「ダブル・ディスティラリー」なら‘15’となっている。この「WWR(ワイン・ウッド・ドリザーブ)」は、スタンプが押してないのは、もしかしたら最近スタンプを押すのをやめたのかもしれないですね。確認はしてないですけれど。
K:ええ。
堀上さん:同じ番号のものは勿論同じ味なんですけど、番号が違えば味も微妙に違っています。
K:ええ。そういう事ですよね。見ると本当に色々な情報がありますね。拘っていらっしゃるのか。
堀上さん:伊知郎さんは拘っていらっしゃいますよ。伊知郎さんの凄いところは、徹底的にやっていらっしゃるという事。ベンチャー・ウイスキーさんは、サントリーさんやニッカさんのような大きな会社と違って、原酒保有の絶対量が少ないですから、同じようにブレンドしたくても、全く同じものを作ることが難しい。だからロットが違えば味が若干違うんです。それを「同じものです」とは言わない。「違うものは違うんですよ」、とはっきり仰る事だと思うんですよ。同じ名前で出しておかしくないものを作っているのは勿論ですけど、中身自体は絶対同じ味にはならないという事を。
K:皆さん分かっているのに、
堀上さん:皆分かっているのに、同じなふりをしない、という所が、伊知郎さんの凄いところだと思います。「だって違うんだもの」と言ってしまう。
K:皆さんがそう思われていても、そう言うしかない方もいらっしゃいますものね。
堀上さん:そうですね。一般的な会社であれば、広報の方、フロントに出て来る方は、同じはずです、というスタンスしか普通は取れないですからね。
K:ええ。
堀上さん:伊知郎さん自身はもちろんですし、秩父蒸溜所で働く門間さんにしても渡部さんにしても、先日アンバサダーになった方も、「いや、違いますから」、と仰る。
K:それは凄いですよね。ところで、アンバサダーになられたのは、吉川 由美さんですよね。
堀上さん:そうですね。
K:私もFBでお友達になって頂いて。ハイランダーインさんにいらっしゃったバーテンダーの方ですよね。
堀上さん:そうです。
K:女性の方は門間さんしかいらっしゃらなかったから、門間さんの印象が強いので、
堀上さん:秩父蒸溜所で女性と言えば、門間さんというイメージでした。
K:実際に門間さんに代わる方は絶対にいらっしゃらないでしょうし、今年(インタビュー時2013年)秩父蒸溜所見学に行かせて頂いた時に「門間さん、今はどちらの担当なのですか?変わらずですか?」と伺ったら、マッシュマンから今は代わって、
堀上さん:え、今違うのですか?
K:編成ではないですが、あるのですか?と伺ったら、「今は管理側に立っています。」、と仰っていました。要は伊知郎さん側に、という事ですよね。
堀上さん:ほほう。
K:マッシュマンだけれど、管理側になっていると。
堀上さん:管理職への道を歩み始めているのですね。
K:門間さん!みたいな感じですよね。
堀上さん:凄いですね。
K:教えている、と仰っていました。でも物作りはお好きなはずですからね。情熱があって、伊知郎さんの所に入られたのですから。でも今後広げていくには、ですよね。門間さんがアンバサダーになられなかったのだなと。
堀上さん:ええ。
K:お伝えはしていませんけれど、勝手に私が思っているだけですが。
堀上さん:はい。門間さんがアンバサダーになっても良かったと言えば、良かったんでしょうけど...
K:最初からの熱い思いが伝わるかなと。
堀上さん:でも、門間さんがアンバサダーになってしまうと、完全に作る側から離れてしまうので、彼女がそれは嫌だっていうのもあるのかもしれないですね。
K:そうですね。勝手な想像で分かりませんが、女性として注目されるより、門間さんは控え目でいらっしゃるから、あまり表に出られる事を望まなかったのかもしれませんね。何度も言いますが、勝手な想像ですが。
堀上さん:そうですね。やっぱりね、アンバサダーという肩書だとセミナーなどで前に立ってやらなきゃならなくなりますから、門間さん...好んでやるタイプではない気がする。
K:そうですよね。前に出ていかれるタイプではないですものね。
堀上さん:やれと言われれば、やります、という、
K:ですね、本当に。インタビューを以前門間さんにさせて頂いた時も本当に控え目ですし、何かあれば伊知郎さんのお話が中心になっていたので凄いなという、尊敬していらっしゃるのだなと、当たり前なのですが、伝わって来ますよね。話が逸れてしまいましたが…。
※次回掲載予定日 3/11(金)
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